ニューライフ赤坂の改修

上本町にある共同住宅の総合的な改修。

共用部から始まり、横並びの空室が出るたびにワンルームの住戸部を405+406号室や211+212+213号室などと段階的に統合・更新し、単身者向けからファミリー向けの共同住宅に順次再編していく。

 

 https://darumayatochi.com/newlife-akasaka.html

上町台地には大阪城の南の防御強化のために豊臣秀吉に集められたと言われる寺や墓地が多く点在している。本計画を含め上町台の共同住宅は寺や墓地を避けるように密集して建てられており、墓地に向かってベランダが並んでいることが多い。墓地に面することは採光や通風などの環境装置としてはポジティブに捉えることができるが、心理的あるいは縁起的にはネガティブな要素となり得る。計画建物のベランダを見てみるとコンクリートの腰壁に鳩避けネットが設置されており、掃き出し窓は小さく、ガラスはフロストであり、外部との関係は非常に消極的であった。閉鎖的な外部との関係はワンルームマンションという一時的な居住空間としては許容され得るが、永住の空間としては疑問が残った。

今回の計画は、単身者向けワンルームというプログラムと立地環境による外部との「分断関係」を、ファミリー向け住戸へ「統合」する試みであり、外部から内部へ、都市から住まいへ、建築がどう接続できるかを考え直した。

外壁には赤いタイルが貼られており、この「昭和的」とでも呼ぶべき素材感は建築の端々に引き込まれ、玄関ホールの壁にも赤いタイルが、さらに共用廊下まで真っ赤なビニル床となっていた。この赤をただ消すのではなく、その記憶を控えめに引き継ぐことを考えた。モルタルを薄く重ね、赤からグレーへと移ろうような表現とし、塗り厚のわずかな差異が、過去から現在へと移行する時間のレイヤーをつくる。

エントランスの低い天井は取り払い、表れた床スラブや配管は第二の空として照明からの光を反射させるようにシルバーの塗装を施した。1階で行ったこの更新手法は、2階以上の共用部にも波及し、既存の吹付タイルの壁やビニル床にもモルタルを薄塗りし、天井のジプトーンは質感を残しながらシルバーに塗装している。モルタルを薄塗りした外壁のタイル、共用部の吹付タイルの質感は、住戸玄関内に施されたリシン吹付の壁によって内部まで引き継がれ、共用部と住戸部の境界を曖昧にしている。

 

Case : 211-13

現地を調査して住戸間の壁、つまり界壁にコンクリートブロック(以下、CB)が使われていることがわかった。これは構造的な理由というよりはおそらく遮音のためであるが、ワンルームマンションとしては「余剰」の素材として存在していた。このCBを撤去するのではなく、環境的前提条件として利用した。つまり、「雑壁」ではなく「構造」として誤読し、既存躯体に見立てることで、単身者向け住戸の形式を制約として残しながら、その上に新しい住戸プランを重ねていく。

住戸を統合する過程で生まれる「ズレ」。たとえば、極端に細長いリビングやウォークインクローゼットなど。それらが、空間の「余白」を生む。均質化された住空間ではなく、生活の広がりが感じられるような場が現れる。CBの壁に新たな開口を設ける際には、木枠ではなく「まぐさ」で補強する。構造的フィクションが織り込まれたことで空間やスケールや素材の認識にギャップが生じる。

Case : 405-6

Photo by exp (Atsushi Shiotani)

既存建物の素材と空間の「記憶」を読み替えることで、

「まち→共用部|玄関→住戸→ベランダ→外」

という既成の関係を

「まち→共用部→玄関→住戸|ベランダ→外」

へと少しずらす。

 

それはまちと共同住宅、内部と外部が、別の方向から接続される、ということでもある。

これは単なる物理的な更新ではなく、素材の記憶を手掛かりに、建築が持つ時間と空間を再接続すること。そして、建築を通じてどのように都市を引き込むかという問いへの一つの応答である。

Before

2024.11

所在地 : 大阪市大阪市天王寺区城南寺町

用途 : 共同住宅

構造 : RC造

 

施工:株式会社 大工さん

 

担当:川口 裕人、島村 健太