地球の棲家

NOT A HOTEL competition 2024 提出案

(共同設計者:ユカワデザインラボ )

 

建築が建ち現れるとき、そこに環境と建築の分かち難い呼応関係が生まれる。

 

北軽井沢の美しく野生的な景観に対して、「守られた空間を作り、自然を相対化し、美しい風景を他者として享受する」というモダニズム建築の定石を更新したい。自然環境と建築が二項対立ではなく、「環境が建築を作り、建築そのものが環境となる」ような渾然一体の関係性。それはまさしく地球にそのまま棲まうような原初的な体験であり、再現性のない唯一無二の建築である。

 

洞窟住居に代表されるように、人類も他の動物たちと同様に地球をそのまま棲家としていた。文明の発展とともに地球 = 洞窟から離れ、竪穴式住居、高床式建築などを経て、地球との二項対立を確立し、外部環境から身を守ってきた。

つまり、人類の住居史とは地球から離れていく歴史とも言える。

翻って北軽井沢という地域を見ると、近傍の茂沢南石堂遺跡では竪穴式住居跡が見つかるなど、大地に直接住んでいた過去と地続きに接続している。そして、浅間山から生まれた溶岩石の巨石が地球の一部として雄大に横たわっている。そのような場所で、 地球に棲まうという原初的で本質的な体験を手に入れる方法について考えた。

 

まず、地球を型枠にしたコンクリートの巨大な構造体をつくる。大地の形質を映し取ったこの巨大な構造体は、砂や岩などの天然の微地形が引き起こす想定外の事象を包含した「地球」というテクスチャーを持つ。巨石がある場所にそのままコンクリートを打つとそこに開口が生まれ、巨石をコンクリートで包み込んでから内部をくり抜くと、巨石のボリュームを内包した小さな洞窟が生まれる。大地や巨石の隆起を掴み取った大きな構造体と小さな洞窟が互いに寄り添い、連なり、光と影 / 雪 / 苔 / 蔓などを纏い、緑 / 巨石 / 水 / 大地と呼応した時、強い生命力に満ちた地球の棲家が生まれる。

壁や屋根といった建築的記号を超えたこの空間は洞窟のようであり、山脈のようであり、現代の技術で再構成された竪穴式住居のようでもある。

 

地球に立つ生き物としての感性を呼び起こす、極めて自然に近いこの建築によって、建築の新しい可能性や価値観を切り開きたい。